神経芽腫と転写因子
神経芽腫と転写因子神経芽腫を引き超す病因には、遺伝子の転写開始や転写調節を行う様々な転写因子が関与し、細胞増殖の増大を招いていると考えられています。特定遺伝子の情報が読み出されて特定タンパク質に翻訳、生成されることを「コード」するといいます。癌遺伝子MYCNは転写因子MYCファミリーのリン酸化タンパク質N-MYCタンパク質をコードします。N-MYCはMYCN増幅期に遺伝子プロモーターE-box塩基配列CACGTG、CATGTGに結合します[1,2]。結合したN-MYCは転写因子として働き、細胞増殖を増大させる遺伝子の発現を増やし、また、細胞増殖を増大につながるDNAメチル化によるクロマチン構造変化を増やします。発生学的にN-MYCは、出生後数週間の発達初期に出現するタンパク質です[3]。その後は成人B細胞にだけ発現します。神経芽腫におけるMYCN増幅は1980年代に報告され、MYCN増幅が神経芽腫のおよそ20%に認められ、10コピー以上の増幅では、最高度の予後不良指標とされます[4,5,6,7]。近年、Molenaarらの研究によって、大部分の高リスク神経芽腫では、LET-7タンパク質発現を抑制するLIN28B遺伝子が増幅されており、その結果N-MYCタンパク質の発現増大に起因することが見いだされています[8]。神経芽腫では、N-MYCタンパク質発現量と細胞増殖は相関することがin vitro試験によって明らかとされており、N-MYCタンパク質による多様な神経芽腫細胞増殖メカニズムが示されています[9,10]。一過性受容器電位チャネルM6およびM7 (TRPM6, TRPM7) は、N-MYCによる転写標的となり、神経芽腫細胞ではTRPM6およびTRPM7チャネルを介在した細胞内カルシウム濃度上昇によって細胞増殖が活性化されています[11]。また、N-MYCは、細胞増殖を促す細胞成長調節因子として重要な役割をもつAタイプ1高移動度グループタンパク質(HMGA1)の発現を増大させます[12]。E2F2タンパク質は、N-MYCの転写調節によって発現量は増大し、転写活性と細胞周期進行を誘発することによって、細胞増殖効果を発生します[13,14]。 N-MYCはまた、セリンヒドロキシトランスフェラーゼ2(SHMT2)タンパク質の発現量も増大させます。SHMT2は、セリンをグリシンに変換し、一炭素塩基の代謝を行う酵素です。グリシンは、SHMT2が細胞増殖を高める上で、メチル基成合成の重要なソースです[15]。ヒトがん細胞パネルを用いて、グリシンの消費量が高ければ高いほどがん細胞はよく増殖することが証明されています[16]。MYCはさらに、3-ホスホグリセリン酸塩基をセリンに置換するSHMT2経路の上流の酵素であるPHGDHの転写も調節します[17]。

標的蛋白質:SULF-2
薬剤名 作用 開発段階
siSULF-2 SULF-2 mRNAを分解(dsRNA) in vitro
標的蛋白質:N-MYC
薬剤名 作用 開発段階
siMYCN MYCN mRNAを分解(dsRNA) in vitro
PNA DNAに結合し、N-MYC蛋白質発現阻害(合成高分子) in vitro
miRNAs MYCN mRNAの翻訳阻害(miRNA) in vitro
JQ1 BET bromodomains阻害 in vitro
I-BET762 BET bromodomains阻害 in vitro
OTX015 BET bromodomains阻害 臨床試験
10058-F4 N-MYC/MAX複合体阻害 in vitro
標的蛋白質:NFκB
薬剤名 作用 開発段階
Bortezomib プロテアソームによるIκBの分解を阻害し、NFκBを不活化 臨床試験
Curcumin NFκBの活性化阻害 in vitro
Oleanolic acid derivatives (CDDO-Im and CDDO-Me) NFκBの細胞核内への移行を阻害 in vitro

標的蛋白質:MDM2
薬剤名 作用 開発段階
Nutlin-3 MDM2を阻害しP53を活性化 in vitro
MI-63 MDM2を阻害しP53活性化 in vitro


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